"iratsume" ->> Nihongo ->> 「分野別」エッセイ ->> カワイイコニハマタタビヲハカセヨ ->> イギリスのゲイ事情 (3) by サミィ

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気づいたら新しい年を迎えていた。Johnがホームパーティをするから友だちと遊びにおいでよと言ってくれた。人の100倍人見知りの恋人を連れてっても私が疲れるだけなので、TちゃんがJohnの家に行ってみたいとしきりに言ってたのを思い出して誘った。実は彼女とは一緒に一度ゲイクラブに行ったのだ。私がWとつまらないことで喧嘩した帰り道、一緒にヤケになってクラブに行ったのだ。Johnは彼女がホモフォビアじゃないのかどうかについて気にしていたのだけれど、そんな心配は必要なかった。

打ち明けるのはずいぶん迷ったが、彼女が席を外した時にキッチンでイチャイチャしてる二人の所へ行って、「ねぇ、聞いて!Tにスキって言われちゃった!」と私は一気に溜めてたものを吐き出すように言った。「んでね、クラブでキスもされちゃった!」JohnとRichardは目を丸くして驚いた後、笑い出した。「んで、あんたはどうなのよ?」と促され「正直タイプじゃないんだよねぇ」と言った後、Tがほろ酔いでキッチンに入ってきたので慌てて、Richardのお手製フルーツポンチについて力説なんかして、うっかり私も酔ってしまった。あまりに楽しい時間で、恋人と居る時なんかよりずっとずっと楽しくて、どうしてなんだろうと思った。

それから、1月も終わる頃にバカ高い授業を受けるのも辞めることにした。その代わりに、格安のバカンスに出かけることになった。マルタというイタリアの南にある小さな島国だ。Tと一緒に出かけたのだが、何よりも私たちにありがたかったのは太陽だった。イギリスの冬の空はいつもどんよりしていて、太陽は滅多に顔を出すことがなかった。日本に居たときはソバカスで苦しめられていた太陽だったが、この時は本当に嬉しくて、殆ど外で過ごしていた。昼からビールやワインを飲み歩き、美術館やカフェで休憩して、何も考えずにふたりでのんびり過ごした。やはりWといるより数倍楽しいことに気づいていた。しかし、旅の途中にイギリスの姉から電話があった。
「お兄ちゃんから電話があった。手首を切ったって言ってたんだけどどうしよう?」
「そんなこと言われてもお互い今すぐ帰れるわけでもないし、親に電話してみたら?」
そんなやりとりをして、私は残りのバカンスを過ごした。

イギリスへ戻って早々、兄から電話があった。
「もう疲れたんだ。仕事が全然できなくてしんどくて、だから帰ってきて手伝ってほしい」
私は正直親の仕事は手伝いたくないと思っていた。今まで何度も手伝ってきたけれど、人間関係だけで気疲れして、その度にもう二度とやらないと言い聞かせていたからだ。しかし、私には断る理由が見つからなかった。姉家族との暮らしもそろそろおいとましたい頃であったし、かといって恋人と一緒に暮らすという案もあまり魅力的に思えなかった。第一、観光ビザだけでは働くこともできないので、一度帰国して働くということには間違いなかった。私は悩んだ挙げ句、ひとつの条件を出した。
「とりあえず2ヶ月働いてみる。それで無理だと思ったら切ってくれていいし、私もやめるって言う」

その後、私は忙しかった。恋人とロンドンへ遊びに行ったり、語学学校の友達や先生とお別れパーティをしたり、荷造りをしたり。思えばあの時私はJohnに話しかけてなかったら、カムアウトしてなかったら。Johnと仲良かった先生はよく私のクラスでフェミ話をしてくれた。将来のことをディスカッションすることがよくあったのだけど、「結婚しない」という可能性について同性愛の存在もちゃんと入れて話をしてくれた。ロンドンで一番流行ってるゲイクラブの場所も教えてくれた。
異性の恋人と過ごすことはなんだか罪悪感のようなものも感じていたのだけれど、私はイギリスでも自分のセクシュアリティを語り、共感できる友人ができただけで、来てよかったと思っていた。何もかも否定はしたくなかった。

帰国日、恋人と恋人の母親とハグをして、バス停まで送ってくれた姉と姉の子どもとバイバイをした。バスの中で私は涙が止まらなかった。別れの寂しさよりも、イギリスでの生活が終わったことへの寂しさだったのかな。

何度も海沿いを歩いて、丘を登って、町に出たら誰か知り合いに会うような小さな町。visitではなく、livingだと私はいつも言っていた。帰りの飛行機も恐ろしく長かったけれど、日本に帰ってからしたいことを考えるだけで時間は過ぎていった。 〜つづく。

Text by Sammy
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    25.09.05
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