"iratsume" ->> Nihongo ->> 「分野別」エッセイ ->> 灼熱天国 カリブ通信 2B-4


ドミニカ共和国在留日本人の中にはこうやって「中国人」と呼ばれることを非常に嫌がる人もいる。

別に中国に対して差別的感情を持っていなくても「自分は日本人だ」と認められたい、間違えられるのは嫌だという人も多い。確かに「中国人!」と見知らぬ人から呼びかけられることに対して、ムキになって反発したり訂正したりする人もその気持ちも分からなくはない。また、彼らがそうやってムキになってしまう背景には、この「中国人!」という呼びかけが行われる状況がそれを助長させてしまうという面もあるのだ。

どういうことかというと。
例えば、中国人、韓国人、日本人など、この国においてはドミニカ共和国の国籍を持つ人に比べて絶対数が圧倒的に少ない。
さまざまな国籍や人種を持つ人々が集まっている首都においても、街を歩いていて、東洋系の顔つきを見かけたら自分でも「おっ、珍しい」と思うぐらいの少なさである。

したがって、そういう珍しい東洋系の顔つきを見た当地の人々は、純粋に珍しくて興味津々で、その東洋系人物に注目する。田舎にいけばそれはもっと顕著で、通りすがるだけで彼らからじぃーーーっと一挙一動を観察される対象となる。

この状態について私は、稀少存在であることによる「動物園におけるパンダ見物現象」と呼んでいるのだが、要するに我々東洋人はここでは存在するだけで珍しい生き物だ。

これまでにも私は、当地の人々からまるで地球外から来た宇宙人のように、目を見開いて穴が開くほど見つめられる、という経験をしてきた。彼らにとっては、うまれてはじめて見た「東洋人」であり、映画の中で見た「中国人」の仲間という認識であったに違いない。

この穴が開くほどじっと見られる、という行為もそういうものだと割り切らないとあまり気持ちいいものではないし、戸惑いを引き起こすだろう。

しかし、実はそれ以上に在留日本人をムキにさせる要素は、当地の人々が用もないのにわざわざ「中国人!」と我々に向かって呼ぶことにある。

例えば、ちゃまごが街の中を歩いているとしよう。もちろん普通に歩いているわけである。奇抜な顔つきや格好や目立つ行動をしているわけでもない。しかし、通りすがりに、あるいは走る車の運転席から、彼らは大きな声で「チナ!」「チノ!」と叫んでくれちゃったりするのである。

しかも、呼んだ本人にはちゃまごを呼び止める用事などありゃしない。なのに、非常に嬉しそうに叫んで我々を呼び止めようとする。要するに、彼らは「珍しいパンダを見つけ、嬉しくて、自分の方を振り向かせたい」のである。動物園で見物者が自分の呼 びかけによって檻の中のパンダの注意をひきたい、という行為と似ている。


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Text by Chamago
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    05.02.04
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