"iratsume" ->> Nihongo ->> 「分野別」Essays/Feminist News ->> エッセイ 灼熱天国 カリブ通信 2-2


マレーシアで「Sir」と呼びかけられ「Mr.ちゃまご」と呼ばれてしまう。でもそれは、マレーシアだけではありませんでした。例えば…

短期で訪れたL.A.でも全く同じことだった。シンガポールでもフィリピンでも。どこにいっても私は「Sir」であり「Mr.」であったので、女性が「Ma'am」と呼びかけられることなど随分長いこと知らないままだった。

日本でも商店街のおばちゃんや歓楽街の呼び込みのおじちゃんに「お兄ちゃん」と呼びかけられることはある。
しかし、普通ちょっとフォーマルな店やホテルに行くと客は相手が男であっても女であっても「お客様」であり、性別の分かる呼びかけをされることなんて少ない。ああいう場で「旦那様」「奥様」「お嬢様」なんて呼ばれようものなら、それこそ身分不相応な別世界の人間になってしまい、ちゃまごの本質から随分離れてしまう。

少し話がずれてしまったが、ともかく、そういった海外での経験により、私は相手からの呼びかけで自分が男として見られているのだとはっきり分かってしまうということが一種の驚きだった。

ところが、そんな驚きはまだまだ甘かった。私の住んでいるドミニカ共和国は、見知らぬ人への呼称バリエーションの宝庫だった。もちろん、英語の「Sir」「Mr」「Ma'am」「Ms」などに対応する呼びかけもある。また、日本語の「すみません」、英語の「Excuse me.」に相当する言葉もあって、それもよく使われる。

よく教育された従業員の働く会社やホテルでは、英語圏同様、それらのフォーマルな呼びかけによって自分が男として認識されていることを知る。スペイン語には男性形と女性形があるので、これらの呼びかけによって自分の性別がどう判断されているかを知ることは容易だ。

しかし、この国の日常生活圏で使われる呼びかけを知るうちに、呼びかけは性別以外の認識情報も表現しうるのだと気づいた。どういうことかというと、ここでは普通に身体的特徴や肌の色を指す言葉をそのまま呼称に用いるのだ。

例えば、「モレーノ」「モレーナ」とは「褐色の、黒ずんだ」を意味する形容詞男性形と女性形で、褐色の肌を持つ若い人に対して使われる。
「ルビオ」「ルビア」は「金髪の、白人の」を意味する形容詞男・女性形で、白人や混血だが割と白人の血が強い特徴を持つ人に対して使われる。
「ネグロ」「ネグラ」は「黒い、黒人の」を意味し、アフリカ系特徴の肌の色が濃い人に対して。「ゴルド」「ゴルダ」は「太った」を意味し、太った人に対して。 「ビエホ」「ビエハ」は「年をとった、古い」を意味して、年寄りや老人に対して。
一方、「ホベン」は男女同形の「若い」を意味する形容詞で、文字通り若い人に対して。…などなど。

最初はびっくりした。えー、こんなあからさまな表現を呼びかけに使っちゃってもいいわけ?と。USAでは黒人系差別問題なんかで、あーいったこーいったと喧々囂々(けんけんごうごう)としているそうではないか。それなのに、こっちでは当たり前に黒い肌を持つ人に向かって、「そこの肌の黒いおねーちゃん!」とか呼びかけてしまうわけだ。それに、太っている人に向かってあからさまに「そこの太ったおばちゃん!」なんて私はとてもじゃないけれど呼べない。もちろん、現地の人々はこれらの呼称を親しみをこめて使っているのだ。彼らにとってこういう風に呼ぶことは、差別的でも見下しているわけでもない。

逆に、この呼称たちになじめない自分の方が、心のどこかで肌の色や身体的特徴による差別化、とまではいかないまでも区別化ぐらいのことを、無意識にしてしまっているのではないだろうか。
しかし私などから見るとネガティブな響きを持つように思えるそれらの呼びかけを当たり前に使うって…どういう事情でそうなったんでしょう?次回へ続きます。


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Text by Chamago
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    17.09.03
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