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エピソード (1)
にっ、肉がはみだしてるー!

この国に来て普通に街や村で見かける人々はたいてい太っている。

最初の頃は、見て くれといわんばかりにぼろりんとはみ出しているお腹や脚や二の腕のお肉に目が釘付けになったものだ。中にはモデルなみにスマートなお兄さんやボディバランス抜群のお姉さんもいるがそれは少数派。おばちゃんやおじちゃんの年代になると特に腰回りを中心としてみんなたっぷんたっぷんと肉付きがよい。

例えば日本だと太っていることは、マイナスイメージを持たれ馬鹿にするような風潮があるが、ここではそんなことはあまりなくかえって太っていることが可愛がられる要因になったりする。

そもそも太っている人を呼ぶときに、名前の代わりに太っているということをもろに指す「ゴルド」や「ゴルディータ」という言葉を使うのだ。日本語に訳するならば、太っている若い女の人に「太っているかわいこちゃん!」とでもいうところだろうか。

また私の職場の学校では、生徒の中に太った若者がいるのだが、彼などは「ゴルド」(=太っている人)と呼ばれ秘書や事務員のおばちゃん達に特別ひいきされて可愛がられている。幼児についてもころころと太った肥満児は例外なく可愛がられる。
「ゴルド」や「ゴルディータ」はどこにでも普通にいてみんなに可愛がられるわけだ。

別にそれは単に友人・家族関係の中にとどまらず、恋愛関係においてもそうで例えば一般に現地人の男性は、肉付きがよく人間トランポリンのようにボリュームのある女性が好きなのだという。ある男性は、「あのむっちりした太い脚とぼよよんとした胸やお尻がいいんだ」と熱く語ってくれた。
街では、そのぼよよん女性とマッチョ男性が暑さをものともせず、バスの座席にぎゅうぎゅうになって座っていたり身体を寄せ合って街を歩いていたりする。

中には健康のために太っていることを気にするような素振りを見せる人々もいるが (実際、中高年世代は肥満による高血圧症や糖尿病など成人病罹患率が非常に高い)、たいていみんな口だけで格好いいスタイルを目指したダイエットなど普通はしない。それよりも太っていてもいいじゃない!太っている方がかわいいわよ!というぐらいの勢いで、お肉をぶるんぶるん。

そういう認識なので、日常会話の中に普通に「あなた太っているわね」とか言ったりするわけだ。かくいう私もこの国に来てから太った口で、そうすると会うたびに「太ったでしょ?」と嬉しそうに現地人から言われるのだった。こちらは日本の感覚をひきずったままその直接的な指摘に「がっく〜ん」とショックを受ける一方で指摘した現地人の嬉しそうなこと。
だから最近は私も開き直って「そう。私は太ったの。ゴルディータなの!」と自分から言うことにしている。開き直ったらそのために悩むエネルギーを他に有効に回せそうな気がする。

「太っていることの価値観」だってところ変わればがらりと変わる。
太っていることが醜いという見方はそういう風に思いこまされる社会にいたから。
この国の人々は太っているということに限らず、自分という存在に(ある意味過剰なぐらいに)自信をもっている。井の中の蛙大海を知らず、の言葉通りという側面はあるかもしれないが、間違っていても人に何と言われようとあそこまで自信を持って何でも主張できるということは強いなぁと思うのだ。

その強気は自尊心の高さに由来し、さらにその自尊心を生み出しているのは、ラテンアメリカ圏で顕著に見られる家族や周囲の人々から無条件で与えられる愛情シャワーであろう。

子ども時代に限らず大人になっても、日常生活の中で肌や体を触れあうあいさつが当たり前にある。私も現地の人々と毎日あいさつのキスやハグをしているうちに、なんだかこの人肌のあったかさが病み付きになりはじめている。そうなのだ、単純なことだけれども人肌のあったかさは愛されていることを直接的に感じさせてくれる「愛情ほんわか剤」なのだ。そして、ぼよよんとしたお肉とハグするときが、実は物理的に一番ここちよい「愛情ほんわか剤」だったりする!!

現地の人々がそういう感覚を持っているかどうかは分からないが、これらのスキンシップはおそらく、太っているなどの身体的特徴による偏見を生み出しにくくしているのではないか、という気がする。
注がれた愛情シャワーがほんわか剤を育て、それが人間関係の潤滑剤になる。太っていようとそうでなかろうと関係ない。だから、胸をはってお肉ぶるんぶるんさせながら、あんな素敵な笑顔ができるんだ、きっと。

ほら、お肉ぶるんぶるんもなかなか素敵な長所だと思えてきませんか?


->> つづき エピソード 2-0
Text by Chamago
  • ライタープロフィール


    11.04.03
    Uploaded by Janis Cherry


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