"iratsume" ->> Nihongo ->> 「分野別」レビュー ->> 本  BFW "Economics of Women, Men, and Work" reviewed by Janis Cherry

Economics of Women, Men, and Work 表紙Economics of Women, Men, and Work
by Francine D. Blau, Marianne A. Ferber, and Anne E. Winkler
List Price: $102.40
Publisher: Prentice Hall; 5 edition (July 25, 2005)
ISBN: 0131851543

タイトルを直訳すれば、「女と男、仕事の経済学」。米国の大学で「ジェンダーと経済」とか「フェミニスト経済学」といったクラスの教科書として使われている。さて、今の経済政策はだいたい新古典派と言われる経済学がベースになっている(新自由主義とも)。他にも経済学はあるんだけど、主流派の経済学、特に米国で経済学といえば新古典派。とはいえ一枚岩ではないのだが。

ちなみに以下の前提に立った経済理論のことを一般に新古典派経済学の理論という(日本語がすごく怪しい)。(1) 人は数ある帰結から合理的なものを選好する。(2) [与えられた条件で] 個人は効用 [効用ってのは幸せ度合いといいますか] を、企業は利益を最大にする [少なくともそうしようとする]。(3) 人々は完全に信頼できる情報を元に独立して行動する。(http://www.econlib.org/library/enc/NeoclassicalEconomics.html)。

この本はそういうメインストリーム内部でしたたかに批判するという戦略らしく、淡々とデータを積み重ね、理論の隙を地味に突いている。まず既存の理論と基礎的なデータを提供し、フェミニスト経済学の視点で(非)合理的な経済人の行動、制度、それから帰結を捉えなおす、というスタンス。特に労働市場での、また世帯内での差別や格差といった制度や慣習上の問題、それから学歴と賃金との関係といった経済的な帰結についてページを割いている。あとはオルタナティブな視点や他分野の見識も生かせれば、と第一章で述べているのだが、うーん、この点は厳しいですわねえ。

問題はレズビアンのレの字くらいは出てくるものの、一貫して性別二分法に何の疑いも持っていない点。当然のごとく異性愛主義だ。子どもを持つとか結婚するとか…今の自分には話題が遠い。人種問題といえばアフリカ系アメリカ人の話になりがち(他のマイノリティについてはデータがあまりないから)。どうも米国在住の白人の中産階級のヘテロセクシュアルの子持ちの結婚経験のある女性の労働事情に偏っているように感じる。今の自分が抱えている不安や今後直面する困難にこの本の内容はどのくらい関係あるのか。ややもすれば読み進むのを躊躇する。

そうこうしている間も経済に関する疑問は膨らむ一方だ。グローバリゼーションって何なのか。規制緩和だか構造改革だかで、正社員になるか、フルタイムのあるいはパートタイムの時給労働者でいるか、「無職」でいるか、目の前にあったはずの選択の自由がないことに気づく。格差社会っていうけどさあ、すでにあった貧困層の過酷さは今に始まったことではないんじゃないかなあ。昔から安心できる住処がない人たちはいる。環境に優しい暮らしはお金持ちにしかできないってうんざり。住んでいる場所がどこであれ、今日明日の暮らしを支えられるだけのかせぎしかない人間が病気になったら、歳を取ったら、事故ったら、生きていけない…では困る。だからお金の仕事の経済の社会保障の税金の仕組みがどうなってるのか考える。

だいたい他の社会問題が、米国在住の女性労働者事情と比べて、自分に近かったかといえばそうでもない。原発だって、アフリカの貧困問題だって、AIDSだって、中国の水質汚染だって、対テロ政策だって…セレブのゴシップ以上に身近に感じていた話題は一つもない。少なくともそのことについて考え出す前は。例えば日本の経済政策のベースはどの経済理論なのか、目指す方向は何なのか、今の経済状況はどこから来たのか。経済学というと拒否反応されることが多くて個人的に大変悲しいのだけれど、自分が知りたいことを学ぶきっかけの一つとして、この本の著者たちと一緒に王道の経済学を突っ込み、彼女たちの歯切れの悪さにもだえてみるのも一興。

<<お知らせ>>
Blau, Ferber, and Winkler. "Economics of Women, Men, and Work" をテキストに2007年4月から8月まで、東京田町にて読書会をしています。全18回、途中の回から、また一部の回のみの参加もできます。詳細はこちら
http://selfishprotein.net/cherryj/indexj.shtml

Janis Cherry
  • ライタープロフィール






    :: Contents ::
     
    CHAPTER 1: Introduction
    CHAPTER 2: Women and Men: Changing Roles in a Changing Economy
    CHAPTER 3: The Family as an Economic Unit
    CHAPTER 4: The Allocation of Time Between the Household and the Labor Market
    CHAPTER 5: Differences in Occupations and Earnings: Overview
    CHAPTER 6: Differences in Occupations and Earnings: The Human Capital Model
    CHAPTER 7: Differences in Occupations and Earnings: The Role of Labor Market Discrimination
    CHAPTER 8: Recent Developments in the Labor Market: Their Impact On Women and Men
    CHAPTER 9: Changing Work Roles and the Family
    CHAPTER 10: Policies Affecting Paid Work and Family
    CHAPTER 11: Gender Differences in Other Countries
     

    29.04.07
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