:: 新着 :: :: 分野別一覧 :: :: イベント :: :: エッセイ :: :: いらつめ人 :: :: ライター一覧 :: :: 説明 :: :: 連絡先 :: |
"iratsume" ->> Nihongo ->> 「分野別」レビュー ->> 本 The Summer of Her Baldness
The Summer of Her Baldness: A Cancer Improvisation (Constructs Series) Catherine Lord (著) U.S. 定価: $24.95 ペーパーバック: 248p; 出版社: Univ of Texas Pr; ISBN: 0292702574; (04/2004) 著者 Catherine Lord(1949-.)はロサンゼルスの少し南にある街、アーバインで大学教授をしている。専門は Studio Art。女性のパートナーがいる。2000年4月に Lord は湯船で体を洗っているときに今までなかったしこりを胸に発見した。5月、検査を受け、初期の乳がんと診断される。外科治療の後、薬物治療を半年から9ヶ月受けることになる。その副作用で禿げることをタイトルにおいて、2000年から2001年にかけて日々他人事のような自分の「禿げ」と彼女が見たことや読んだこと、考えたこと、周囲の反応が、メール、モノローグ、そして写真の形式でつづられている。読んでいると南カリフォルニアの乾いた明るい空の下にいる錯覚を起こす。生活感と透明感が共存する写真のせいかもしれない。 半年ほど前、レズビアンのロック歌手 Melissa Etheridge が乳がんだとウェブサイトで公表し、先日のグラミー賞授賞式に顔を見せたらしい。"Melissa's Grammy appearance" by Kathleen DeBold (February 23, 2005) この記事には次のように書かれている。 レズビアンについては一部のがんになりやすいという研究が少しあるだけである。性的指向や既成のジェンダーに沿ってない見た目を理由としたあからさまな、あるいは遠まわしな差別があって、レズビアンががん検診や治療を受けることには深刻な障害がある。こういった障害には、健康保険未加入(レズビアンは結婚できないし、ごく少数の職場でしか同居パートナーを被保険者とできない)や、レズビアンに焦点を当てた健康についての教育が欠けていること、ヘテロセクシズム(異性愛主義)/ホモフォビア(同性愛嫌悪)が医療従事者や関係者の間にあることが含まれる。結果として、レズビアンはより進行してからしかがんと診断されない。Melissa Etheridge[ががんを公表したこと]は、こういった状況を一挙に改善する助けになるのではないか。 もちろん、Ethridge の前に乳がんをはじめとしたがんと診断されたレズビアンがいなかったわけはない。アフリカ系アメリカ人でレズビアン・フェミニストである詩人の Audre Lorde(1934-1992)は特に有名だ(読んでないけど)。医療サービスの受け手である側から女性や障害者などマイノリティが健康や医療を捉えなおす運動もあるし、"Dr. Susan Love's Breast Book" という半分くらい乳がんのことが書かれたひたすら乳とそのケアについての本もある。まだまだ数は少ないがレズビアンのがん患者・サバイバー自助グループがないわけではない。初版では特にがんの持つ社会的な意味を分析した『隠喩としての病』を書いたのはごく最近亡くなったレズビアンの Susan Sontag(スーザン・ソンタグ)である。 当然のようにこの本を書いた Catherine Lord はそんなことはみんな知っている(彼女が得たこういったリソースは本文中にたくさん書かれているが、そういった情報の紹介はこの本の主たる目的ではない)。仲間にも家族にもパートナーにも恵まれていると言っていいだろう。それでも、怖い。それでも、叫びたくなる。それでも、迷う。それでも、疑う。それでも、信じる。自分が乳がんだと公にしたことが噂になるその前に大文字で笑い飛ばしてみせる「乳首はあるし、死んじゃいないって」。 実物の Catherine Lord は2002年に見た。そのときは確か同じタイトルで写真スライドを順に追いながらのプレゼンテーション。あの時どの程度自分が理解していたのか分からないのだが、思いっきり笑ったことを覚えている。この本を読んでいると、自分自身や社会の持っているがんや病気や女ジェンダーやレズビアンやそのほかもろもろに関する偏見や差別意識と出会うことが度々あって、その都度大笑いし、時にニヤリとさせられる。生々しい言葉がすごくリアルなのにつらくて悲しくてかわいそうな闘病記ではない。それは「即興」でありながら、きちんと意図通り読まれるように計算した上で一冊の本になっているからだと思う。何気ない日常の映像を端的に切り取った映画のような回想録。 Reviewed by Janis Cherry << 参考書籍・URL >> Susan M. Love (著), Karen Lindsey (著), Marcia Williams (イラスト) U.S. 定価: $22.50 ペーパーバック: 700p 出版社: Perseus Books Group; ISBN: 0738202355; 3rd Rev 版 (09/2000) 乳がん患者・サバイバーの教科書かバイブルみたいな本です。レズビアンのことについても触れられています。誰か翻訳してください。ていうか訳しますから日本語で出してください。 http://www.mautnerproject.org/ Audre Lorde (著) U.S. 定価: $8.00 ペーパーバック: 77p 出版社: Aunt Lute Books; ISBN: 1879960265; (06/1980) by Audre Lorde Paperback: 134 pages Publisher: Firebrand Books (04/1988) ISBN: 0932379397 残念ながら "A Burst of Light" は絶版のよう。どうしてその治療を選んだかなどを書いているらしい。 http://www.mautnerproject.org/ がんと生きるレズビアンのためのNPO。ワシントンDCに事務局がある。このサイトに出てくる wpw は women who partner with women(女性をパートナーとする女性)の意味。 http://www.bway.net/~mich/ New York City Lesbian Cancer Support Consortium というレズビアンがん患者の自助グループをニューヨークで立ち上げた人のページ。検索するとこの人の文章はウェブ上で読めるものが多いです。 05.03.05 Copyright © 2002-2008 "iratsume." All Rights Reserved. |