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「フィンランド現代美術展 - GOKANN 五感・五官・互換・語感・語幹」
2003年11月21日(金)〜 12月14日(日)
第109回 フィンランド美術展・第4回 フィンランド芸術トリエンナーレ
http://www.feelfinland.jp/j/events/event_info.php?id=28

11月21日-12月9日 京都芸術センター
11月21日-12月14日 京都精華大学ギャラリーフロール
11月18日-12月14日 ヴォイス・ギャラリー


フィンランドの現代美術が京都に来ている。足を向けたきっかけは一本の携帯メール。

「ギャラリーフロールの五感展行きました?そこで boygirl って映像作品がマイノリティに触れてるんですけど英語に阻まれて概要しか解らず!は、いいとしてセックスに関係あるかしらと思われる物が 2、3 ありましたよ。他のも綺麗だし弱お薦め展でした。もし見に行ったら boygirl の詳細教えて下さい」

学内のギャラリーだったので、さっそく行ってみた。ざっと会場を見渡して、映像ブースを探す。目をかすめる女性の姿を撮った写真作品も気になるが通り過ぎ、まずは気になる "boygirl" を見ることに。

映像はインタビュー形式。登場するのは、作品のタイトルを借りれば boygirl 3人。
3人の見て分かる共通点はショートカット…というよりは短髪刈り上げ、ノーメイク、ゆったりめのスポーティな服装、すっかり LGBT 慣れした私には FtM もしくは X ジェンダー、ダイク、ブッチ、そんな言葉が頭をよぎるけれど、まったくそんな知識のない人には少年として目に映るかもしれない。
そんな boygirl たちのつぶやきを聞いてみよう(引用多すぎかな)。

アウロラ・レインハード Aurora Reinhard / 2002
"Portrait - boygirl"

「人は自分のこと男だって思うわけ、十代の。だから普段は目立たないよ。わざとやってるわけじゃない。単にこうなっちゃっただけなんだ」

「でも電話で話始めると、女に聞こえるんだよね」

「どこかに行くとさ、例えばジムの更衣室とか、自分入ると部屋全体が緊張感にみなぎっちゃって。そんなだからジムに行くときはダッシュで行って帰ってくるんだよ。向こうで着替えるのにいちいち説明したりしないで」

「どこかに行くとすぐに誰か新しい人と会うし、分かってると思うけど、自分の見かけから多くのことを判断するんだ、みんな。
 自分にとって問題は片付いてる、ただ毎回新しい人に会うたびに相手は考えるだろうね。だからって向こうから聞いてこなくてもいいじゃん」

「それでも特別な場面、例えば卒業パーティーとか、女子の格好したよ、自分の中のどこか女である部分をむき出しにしてみた感じだった」

「他の女子たちみたいになろうと努力したことあるよ。もちろん簡単な事じゃなかった。結局は別物ってことになるんだよね」

「レズビアンかどうかって考えることからは逃げてる。レズビアンという言葉は自分にはしっくりこないから、それに自分を当てはめる必要はないと思ってる」

「女性的な精神構造とか男性的な精神構造とかそういう分類を受け入れられない。それとか『これがオトコの考え』とか言われてもね。そんな風に線引きできないよ」

「自分にはホルモンは必要じゃない。自分がこうなののはそういう事じゃないんだ」

「男としてやってくのにも結構大変だと思うんだよ、女としてやってくのと同じくらい」

…どこかで聞いたことあるような?もしかしてあなた/私のこと?あなたの知り合いのこと?恋人のこと?そして敏感なあなたなら、boygirl たちがレズビアンカテゴリーに入りたくないというところに、なにやらホモフォビアやミソジニーな気配を感じ取ることもあるだろう。そしてそう感じるあなたの中にはマンヘイトやトランスフォビアがあるかもしれない。

残る疑問。これはアートなの?

固定撮影で3人の姿と心の言葉が流れる以外には何も特別な仕掛けも技術もない映像。
性の境界に住むこの3人は意図的 (artificial) に 中性的〜男性的な自分を体現しているわけではない。単にできないことをしないでできることだけをしてたら社会の変わり種に見えるようになっただけの boygirl たちの日常。アートとしてものを作るという行為に付随するもの ― 自分自身に正直になること ― ならば、この映像をつくった作家も X ジェンダーなのかもしれない。そして ―(マジョリティ)社会のはじっこに生きている人々の立場から世界を見直してみよう ― という試みなのかもしれない。


もう一人、先に横目に通り過ぎてしまったもう一人の作品を紹介しよう。
エリナ・ブロテルス Elina Brotherus / 1998

"Divorce portrait" という彼女の写真作品は今回の展覧会のポスターの一つにもなっている作品。
いったい彼女は何と決別したいと思っているのか。

"I Hate Sex" ベットの上で無表情に横たわる女性のスチール。

"False Memories 1-2" …ここまで来たらカンのいい人は気づきますよね?バックラッシュに苦しむ横たわる彼女に寄り添う人の影、身体にまわした手 2 点。

"Landscape and Escape 1,5" 回復の過程なのかな、と思わせる写真。森の中で撮られた彼女自身のヌード写真と友人らしき人たちとのピクニック写真の 2 点。

このフィンランド現代美術展が私にとって新鮮だったのは、フィンランドではセクシャリティやセクシャル・マイノリティに関係がある作品が堂々と現代美術の作品として取り上げられているという点。現代の社会に対する批判精神・問題意識が浮き彫りにされることが現代美術なら、セクシャリティやセクシャル・マイノリティの存在の顕在化を無視して今の時代を問うことはできないだろう。

と、いうことで長くなりましたがみなさんも Let's Go!

Reported by mike
  • ライタープロフィール
    * "boygirl" の映像作品の英語字幕・日本語訳に関するお問い合わせ [ grrls(at)nifty.com ※ 2009年6月以降、いらつめに関するお問合せは、Janis までお願いします。]






     
    << 関連URL >>
  • 京都精華大学ギャラリーフロール
    http://www.kyoto-seika.ac.jp/fleur/

     
  • GOKANN展(京都精華大学ギャラリーフロール内)
    http://www.kyoto-seika.ac.jp/fleur/2003/gokann/index.html

     
  • Artists' Association of Finland
    http://www.artists.fi/

     

    updated on 01.06.2009
    10.12.03
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