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"iratsume" ->> Nihongo ->> 「分野別」Essays/Feminist News ->> Original articles 企画特集 記事 ロス便り
アファーマティブ・アクションへの逆風 affirmative action は「(特に雇用における女性・障害者・少数民族の)差別撤廃措置」(三省堂『EXCEED 英和辞典』)と日本語訳されている。 例えば、米国の歴史上あまりにも長く被差別下にあった黒人たちに白人と平等な雇用のチャンスが今になって用意されても、それまで黒人には教育を受けるチャンスが少なかったのに、白人と同じ基準で雇用基準に達していると認められるだろうか?黒人は白人と例えば同じ年数の教育が受けられるような経済状態にあっただろうか? もしもある少数派の雇用を保証するのなら、それまでの教育を受ける権利が保障されてこなかったことなど、歴史的に差別されてきた人たちを平等に扱うために再スタート地点で少し底上げをしよう、そして新しく作る環境ではより多様性を許容する、というのがアファーマティブ・アクションの考え方だと思う。 affirmative アファーマティブという形容詞は、肯定的に、断定的な、という押しの強い、力のこもった肯定感を表す。 アメリカで不利な立場にあるマイノリティを、大学入学審査や雇用の際、優遇することで差別撤廃を目指すアファーマティブ・アクションが始まったのは30年ほど前。しかし近年その政策は批判されることが多い。先日、連邦最高裁で否定されてしまったのは、ミシガン州立大学学部課程の入学審査で行われているアファーマティブ・アクション。 (Supreme Court Upholds Principle of Affirmative Action in MI Case But Strikes Down Explicit Program (June 23, 2003) http://www.feminist.org/news/newsbyte/uswirestory.asp?id=7877) 「ミシガン州立大学システム(其々が独立した総合大学である分校の集合体)では、入学審査は150満点で、内110点が学力考査の点数や高校時代の成績。マイノリティである志願者には20ポイントが加算される。低所得世帯出身であれば20ポイントの加算。ただし、マイノリティで低所得の応募者が両方のポイントを稼ぐことはできない。ミシガン州北部の半島部分出身ならば16ポイントを得られ、そのほか課外活動リーダーシップや奉仕活動、人生経験も加味される。どんな(バックグラウンドを持った)学生であっても、合格するには最低基準を満たす必要がある。」 これが、今回否定されてしまったアファーマティブ・アクションのやり方だった。 同記事によると… 「主席裁判官の Rehnquist が書いた裁判所の多数派意見は、このポイント制が、実際には割り当て制になっており、『教育的効果のある多様性に達するという厳密な目的に応じていない』という。 しかし、(Ginsburg 裁判官が意見執筆に参加させた)Souter 裁判官は彼の反対意見部分で、ミシガン州立大は『割り当て』制を使っている訳ではないという。何故なら、非マイノリティ学生がある部分で競争さえできないようにされているというよりは、ミシガン州立大は個人応募者の沢山の合否決定基準のあくまでも一つとして人種を捉えているからだという。」 quota 「割り当て」というのは決まった割合でマイノリティを入学させているために、その割合の分、本当は実力が十分にある非マイノリティが排除されてしまう、という論だが、ポイント制の説明を読む限り、反対意見に書かれている方が事実と私には思える。 先のミシガンの例では割り当て制と批判されたアファーマティブ・アクション(被差別人種にポイントを加算した制度)ではあるが、その代替案として現在複数の他州立大学で取られている出身高校毎割り当て制(高校毎に人種比率は大きく違うから特定の高校から受け入れすぎないようにすれば人種の多様性が実現するはずという思惑)がある。けれどもある調査によるとアファーマティブ・アクションよりも出身高校毎割り当て制では、人種の多様化効果(差別撤廃度)は薄い。 (Alternative to Affirmative Action Less Effective, Study Finds (February 11, 2003) http://www.feminist.org/news/newsbyte/uswirestory.asp?id=7524) まあ、乱暴に言えば東大に男子校出身者を入れすぎないようにしたら、女の東大生が増えると言っているようなものであるが、いまいち効果薄し、という話。それよりも、女に一律1点増しにするほうが男女比が女子よりになるっていうのね(非常に乱暴な論法で失礼)。 以前から、恐らくかなり初期から、アファーマティブ・アクションというのは「逆差別」だのなんだのと批判こそされてきたのだが、実は上に書いた通り、方法論として差別撤廃の目的を果たしているし、経済効果も高いのだという。 IHT: Economic scene: Fallout from affirmative-action decision can be positive (July 1, 2003) http://www.iht.com/articles/101267.html 例えば、この記事の言うところでは、入社試験では点数がよくなかったが本当は実力のあるマイノリティを雇うことがアファーマティブ・アクションのおかげでできるのだから、雇用する経営者の視点から考えてもプラス。 しかしそもそも、アファーマティブ・アクションは差別撤廃か逆差別かという問題なんだろうか。 見方を変えれば、例えば大学入学審査で、今までは合格できていた非マイノリティが不合格になるなら、入学枠が狭すぎると言えないか。今の大学教育は特権階級のためだけにあるのではない。大学が学生個人の多様なバックグラウンドを教育上プラスと考え、差別のないキャンパスを作る気があるのなら、全ての希望者に大学教育の機会を与える努力を当局がするってのが理に適っていると思う。 そしてもしも十分なお金と人材が教育分野に回って来れば、現役でエリート大に入って4年で卒業することが年を取ってから三流大と言われる学校で8年かけて卒業したこととそんなに進学や雇用の際に差にならなければ…あー、話がずいぶんずれてしまった。 ブッシュ政権誕生辺りから露骨に保守化傾向の米国で、アファーマティブ・アクションへの逆風は強くなっている。人種差別以外にも階級差があることを、アファーマティブ・アクション反対派は考えないように(あるいは考えさせないように)しているみたいだ。アメリカでマイノリティが差別されているのは事実、という認識は共通らしいが、解決策になり得そうなこの政策を文字通り差別を撤廃まで遂行するのは今の状況ではどーも厳しそうである。 UnderstandingPrejudice.org: Ten Myths About Affirmative Action http://www.understandingprejudice.org/readroom/articles/affirm.htm 最後に。 このサイトに書かれているのは、アファーマティブ・アクションにまつわる10の迷信(誤解)。30年の歴史があっても一つの政策だけで人々の意識が変わるわけでもなく、その政策さえ遂行できていない。特権を奪われていく非マイノリティの焦りと、差別がなくならない歴史と現実があるのに今の政府に政策如きに何ができる?(否できまい)というマイノリティの不信。 だから一人一人が URL ドメイン名通り、understanding prejudice 「先入観を理解する」必要があるんだ。解決策は誤解を解くための対話から始まる。 誰かより優位でなくても、私たちは生きていける。けれども、劣位にいる人間がそのうち生きていけなくなることはままある。動くのは今。 Text by Janis Cherry <<参考URL>> http://www.feminist.org/news/newsbyte/uswirestory.asp?id=7877 ミシガン州立大学の学部課程入学審査でのアファーマティブ・アクション(上記で詳細を訳した)は最高裁で否定されたが、法科大学院が応募者の人種を考慮することは支持されたという記事。 http://www.womensenews.org/article.cfm?aid=1405 http://www.now.org/ http://www.now.org/issues/affirm/ http://www.now.org/nnt/08-95/affirmhs.html アファーマティブ・アクションの起源。 http://www.msmagazine.com/ http://www.msmagazine.com/mar03/stern.asp http://www.bamn.com/ カリフォルニア州の住民投票で州立大入学審査のアファーマティブ・アクションが攻撃されたことを受け、1995年7月にバークレー(カリフォルニア州立大学バークレー校がある)で発足したアファーマティブ・アクション支持組織。(同州立大でのアファーマティブ・アクションはその際廃止になっている) 90年代末からアファーマティブ・アクションに対する世論が大きく揺れ始めたころ出された、ワシントン・ポスト紙の特集。 http://www.gender.go.jp/ 3 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保 http://www.gender.go.jp/kihon-keikaku/2-3h.html affirmative action に通じる考えをベースにした政策に、雇用・労働分野での「ポジティブ・アクション」というものがある。しかし現在の米国でのアファーマティブ・アクション認知度・普及度他の状況と比べて相当弱い。 Copyright © 2002-2008 "iratsume." All Rights Reserved. |