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テレビとラジオの規制緩和

先日(2003年6月2日)、米国のテレビ規制に関して大きな変化がありまして、FCC というテレビ・ラジオ・無線関連の決め事を取り扱っている機関がルールを変更したという。今でも地上波は特に、少数のテレビ局が牛耳っている状況ですが、その傾向をより許す決まりになったそう。これ、私なんかには嬉しくないニュースです。[1]

私が理解している範囲で以下説明すると。テレビ・ラジオというのは情報へアクセスできる媒体(メディア)の一つ。情報を得ることそのものが人間の権利。だから、テレビ・ラジオも、印刷物も…ということは新聞や雑誌を含めたマスコミはもちろん、図書館もコミュニケーションツールである電話も、基本的に誰もが、金のあるなしにかかわらずアクセスできるべき、というのが恒常的理屈。

だから、アメリカでは貧乏世帯のために格安の電話料金制度があったりするし、テレビ持ってるだけで見てなくても放送受信料金の取立てが来るなんてないし(情報アクセス権の保障ゆえかどうか知りませんが)、大学の図書館でも公共財産、情報を持っているんだったら住民にそのアクセスはちゃんと保障するという気持ちが強い(お金が十分下りてきて運営がスムーズにいくかはまだまだ課題だったとしても)。

しかしテレビやラジオの場合、無線の技術的な特性から、受信できる局数はどうしても限られてしまう。そのくせ情報の中身は他の媒体以上に発信者側に大きく依存する。もしも日本のテレビ創成期のように NHK しかなかったら、嘘でも公平な放送を目指さなきゃいけません。

というのも、どんな媒体を使っていても報道というものは、受け手である大衆のためであってこそ(決して権力のものではない)。なんだけど、どうがんばっても放送というのはその部分が怪しくなる。なぜなら情報の受け手(視聴者)と、テレビ局への資金提供者(スポンサー企業や税金で動いているなら政府)が間接的にしかつながっていないから。発信者は放送内容とその切り口が視聴者のためになっているかを意識しないといけない。だからテレビ・ラジオ放送に関してはいつも大企業応援してるだけに見えるアメリカ政府だってちゃーんと規制してきたのだ。誰もが無線放送を通していろんな情報にアクセスできるように、公平なテレビ・ラジオ放送を保障するために。

しかし今じゃあケーブルテレビ(有線)もあるし、衛星放送もある。インターネットテレビというのもある。だから、もう放送の選択肢は増えたし、視聴者は自分でどれを見るか、何を信じるか、選べるんですから、今の今までやってきた無線テレビやラジオに関する規制はもうしなくていいよね。というのが新しい理屈。

けれど、テレビの規制緩和に向かっていくのと同時で分かった問題は、2003年3月から始まったアメリカのイラク攻撃について、アメリカ国内マスコミの報道が発信者が誰でも非常に非常に非常に米国政府寄り「だけ」だった点。そのため、インターネットでわざわざ検索をするような問題意識のある人でない限り、アメリカ在住者は偏向報道にさらされ続けたし、結局大多数のアメリカ人は世界中を敵に回してもイラクの人々を独裁者フセインから解放するのだと、本気でブッシュ政権を応援し、その言い分を信じることになってしまった。アメリカがイラク攻撃したせいで(同時にアフガニスタンにもまた軍隊を増やしたりして)アメリカ人や政府機関に対するテロの危険度はかえって上がったっつーのに。攻撃した直接の理由であるイラクの大量破壊兵器だって、いまだ見つかってないのに。

2001年9月の NY テロ以来、そしてこのイラク攻撃以降特にアメリカのメジャーなテレビはとことん怖くて、悲しかった。どのチャンネルも、基本的に同じ内容で。特に FOX テレビは、反戦運動のデモを交通の邪魔で渋滞の元凶という扱いでしか取り上げなくて、一方で 公平な報道を心がけていますとしゃーしゃーと言うもんだから、相当悪かったと思う。

さて地上波を見ているのはまずケーブルや衛星放送を引く金のない貧乏世帯である。インターネット技術を使いこなす暇や金や、教育を受ける機会の少ない人たち。それはまず子どもと高齢者、そして低所得者全般。社会的地位の低い人たちほど低所得者であり、誰もが情報にアクセスする権利はあるけれどみなにその権利が保障されているとは、今現在の米国社会で言えるわけがない。だからやっぱりこの層は画像と音声で情報が得られるテレビやラジオに頼ることになる。この層というのは実際のところ人口の大きな割合を占めているからこの人たちの意見が世論になっていくのはほぼ確実。だからテレビで攻撃開始前から米国内では少数派だった反戦デモなどの運動をどう伝えられたかが、反戦運動の生命線を切ることになった。そして、今のテレビに自浄能力は、たぶん、ない。

日本でも規制緩和ということでメディアの自由化については同じ動きがあるらしい。NHK が本気で公正だと信じる人はまだまだいる。だから規制緩和したって放送全体の公正さは保たれると思っている、とかね。

今、放送を動かしているのは、私たち、じゃないことの方が多いと思う。でも現状に甘んじて放送に動かされているのが私たち、なんてもうやってらんない。そりゃあ、ケーブルテレビも衛星放送も、インターネットもあるけれど、大手も零細新聞も雑誌もミニコミも色々あるけれど、映画館だって演劇だって独立系のとこもあるけれど、影響力の強い(既に金を持っている)メディアに対して、一人一人の文句は当然出てくる。

大きなメディアに押しつぶされそうになっても諦めないで、自分の意見を表明する手段に、もっと色んなメディアをこっちだって使っていきたい。たとえばインターネットがある、機関紙やミニコミ発行、集会やデモ、署名集め…もちろん、直接の選挙や住民投票もありだ。パフォーマンスで意見表明するにしても、人に見てもらう場所と時間と、それから状況まで作ることが同時に必要。そのためには金も人も欲しいし、宣伝の方法ももっと探らなきゃ。

まずは小さなところから、直接自分が関われるメディアを作りだす。そして、誰もが色んな情報にアクセスできるように、大きなメディアは利用したい。目標は小さな声に耳をすまし、大きな声の主に耳をすまさせること。フェミニストでレズビアンなアーティストの声が小さいうちは、その声が聞こえるように工夫しよう、そういう目的でいらつめは育てていきます。そんなわけで私の NHK デビューも近いかもしれません(冗談)。


Text by Janis Cherry
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    <<参考URL>>
  • FCC Approves Deregulation of Nation's Media
    http://www.feminist.org/news/newsbyte/uswirestory.asp?id=7826

    FCCが規制緩和の決定をしたという記事。Feminist Majority のニュース配信サービスより。お薦めのサイトでもあります。

  • FCC: Federal Communications Commission
    http://www.fcc.gov/

    FCC 公式サイト。

  • マスメディア集中排除原則(地上放送関係)の見直しに関する 基本的考え方についての意見募集
    http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/030516_5.html

    日本の地上波テレビ規制緩和についての総務省から意見募集案内。要するに規制緩和はしたい、らしい。

  • Society of Professional Journalists - Code of Ethics
    http://www.spj.org/ethics_code.asp

    ジャーナリストのための倫理基準。Society of Professional Journalists という団体の会員ジャーナリストが守るべきという。感動的なほどまじめに正義を論じている。これを偏向報道機関に送りつける手紙の根拠にしましょうという運動があって、相当皮肉ってて面白い、と思った。

  • 独立系プレスと米国マスコミよりずいぶんましな英国発新聞いくつか
  • http://www.alternet.org/(ニュースへのリンクが充実)
  • http://www.freespeech.org/
  • http://www.adbusters.org/(カナダ発・反戦運動の一環として Boycott Brand America アメリカブランドをボイコットしようというアイディアを発信していたところ)
  • http://www.independent.co.uk/(英国発)
  • http://www.guardian.co.uk/(英国発)

    [1] 2003年6月29日追記。ここにきて連邦政府上院議会の委員会でメディア規制緩和を覆す法案が通ったそう。英文ニュースはこちら。http://www.feminist.org/news/newsbyte/uswirestory.asp?id=7880

     
    2005年1月4日追記:低所得者ほどインターネットにアクセスする機会が少ないことを示す統計の一部。
  • ネット利用機器保持率、高齢者・低所得者ほど低く〜総務省調査(2003年2月24日)
    http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0224/kakei.htm

     
  • Computer and Internet Use in the United States: September 2001 Detailed Tables (PPL-175)
    http://www.census.gov/population/www/socdemo/computer/ppl-175.html

    連邦政府の統計から。"Presence of a Computer and the Internet for Households, by Selected Characteristics: September 2001" という表が分かりやすい。
     

    16.06.03
    04.01.05 updated
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