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woman-to-woman_sexual_violence_coverWoman-to-woman sexual violence: does she call it rape?
Lori B. Gurshick
U.S. 定価:$16.95
価格: ¥2,230
ペーパーバック
出版社: Northeastern Univ Pr ; ISBN: 1555535275 ; (03/2002)

この本のカテゴリーは Sociology(社会学) / Lesbian and Gay Studies(レズビアン・ゲイスタディーズ) / The Northeastern Series on Gender, Crime, and Law(NUP出版社の「ジェンダーと犯罪、法律」シリーズ)

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女性から女性への性的暴力についての本。
対象としている読者は、当事者にとどまらず、暴力被害を生き延びてきたサバイバー女性援助のための機関職員や、政策決定者とその支援者に向けて書かれている。そのため、最初に問題の所在を明らかにしようとレズビアンコミュニティ特有の問題についてかなり大きな社会的文脈を捉えて概観を述べている。

特に、同性愛嫌悪(ホモフォビア)、両性愛嫌悪(バイフォビア)、トランスジェンダー嫌悪(トランスフォビア)それぞれの影響については詳しすぎるほど。

著者自身レズビアンであり、近親姦サバイバー。
そういった経歴から、大きな社会の中でどうしてもマイナス評価を受けるレズビアンが、さらにマイナス評価を強めてしまうようなこと(たとえば近親姦サバイバーということ)を語ることは、避ける傾向があると述べている。レズビアンコミュニティ外の世界に対して、いわば弱みを見せることを私たちは恐れているから、コミュニティ内の「闇」はどうしても自己規制で隠されてしまう。

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また女性間の性的暴力が公にならない理由の一つは、女性が加害者であるとき、その被害は矮小化される傾向があるからという。何しろ、法律的な意味でも、常識とされている言葉の上でも、女性が女性の性的暴力の加害者になり得ないことになっている。
副題の「Does she call it rape?(彼女はそれをレイプというの?)」はその部分をついている。

しかしもともと、ある性的暴力被害が「レイプ」かどうか、というのは、加害者が男性で被害者が女性の場合なら、フェミニストの間で活発に交わされてきた。だから、この副題は「レズビアン・フェミニスト」の持っていたレズビアンユートピア幻想を打ち砕くだけでなく、この問いがまだ有効であるという現実を、フェミニスト(一般名詞)に実に巧く自問させるに違いない。自称フェミニスト[1] にこそ、この本を読んで欲しいと Girshick は願ったのではないか。

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男性が加害者で女性が被害者である場合と共通の問題、それから女性が加害者であり被害者である場合に特有の問題、ともにこの本には書かれている。

男性によるレイプ神話(迷信)のように、あんなにいい人がそんなことをする訳がない、と被害者の言うことが信じてもらえない。また、シェルターの職員でも、どちらが被害者かという推測ができないから、施設側から電話をかけて援助を申し出ることが難しい。

レズビアンによる暴力加害を警察に通報したくても、レズビアンであることが公になるのを恐れることもあるだろうし、レズビアンの痴話げんかとまともに取り合われず、噂話の種になってしまうかもしれない。
かといって、レズビアンコミュニティ内に、サポートの場があるかといえば、ほとんどない。

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全体を通じて、女性による性的暴力の女性サバイバーを対象とした独自の調査結果を元にしているが、一般的には統計として無効になる、数字に出ない部分と途中経過(実際にはアンケート用紙に書かれた回答を回収した後に行われたインタビューやその間の回答者の内面の変化)を著者は大切に考えている。そのため、客観性を失っても、どうしても言わなければ、と彼女が感じていることが前面に出ている印象が強い。
たとえば、最初「レイプ」のような強い言葉を使わずに、少し乱暴なセックスに付き合わされた程度だったのだと、ずっと自分を納得させてきたサバイバーが、インタビュー開始から数ヶ月以上を経て、あれは「レイプ」だったと語り始めるなど。

さらに、SM について、Girshick は、非常に警戒している。ロールプレイが、たとえそれが場を特定しての一時の約束で、お互いの意思を尊重しているといっても、やはりお互いが平等な役割を演じるのではないのだから、人権侵害でない、SM はありえないだろう、という考え。その点で、先日紹介したUK 発のレズビアン間の DV(ドメスティック・バイオレンス)についてのブックレットとはスタンスが違う。(先のブックレットにはSMについて肯定的に主張している Pat Califia が参加している)

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実は、この本、かなり読みづらいと感じた。

意地悪な見方をすれば、この部分は突っ込まれるだろうから先に言い訳をしておこう、と読める箇所が目立つ。これは、米国のレズビアンコミュニティで、レズビアン間のDVについてすでにある程度の議論が進んでいる背景も大きい。しかしそれにしても防衛的というか、反論を恐れる姿勢がつらい。

心理的に調査対象者であるサバイバーに Girshick がとても近いから、反論されたらどうしようと心配している、だから開き直れないのではないかとも思う。学者として距離を置いて客観性だけを重視してもよかったのに、もっと被害者に近い立場から、Girshick 自身の痛いほどの正直な感情が出ている。

何より、この本からしか得られない調査結果とその経緯は貴重。法律や行政サービスの今後について考えるとき、たたき台になる一冊。最終章、教育に対する提言に特に賛成する。


14.04.03
Reviewed by Janis Cherry [ janis_cherry(at)selfishprotein.net ]
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    [1] フェミニスト雑誌 Ms.によれば、アメリカ人女性の70%がフェミニストと自認している。



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